『 雨の日は  ― (1) ―  』

 

 

 

 

       しとしとしとしと  ・・・・・

 

「 ・・・ あ〜〜 また雨なのぉ〜〜 」

フランソワーズは カーテンを開けてがっかりしてしまった。

「 昨日も・・・ そうよ その前の日も ず〜〜っと雨だったわよね?

 え・・・ 今週ってず〜〜〜っと たしか お日様 見てないわ 」

カレンダーを確かめてみる。

「 う〜〜ん・・・  日本って 雨季 があるのかしら 

そんなこと、聞いてなかったのに・・・ と 溜息が漏れる。

「 この国には四季があるけど この辺りは穏やかで温暖な土地だよ・・って。

 コズミ博士が教えてくださったのに ・・・ 」

 

この国に来て知り合った温厚なこの老科学者は 彼らの異国での生活での

よき相談者にもなっている。

ギルモア博士の旧友、と聞いて最初は少し警戒していたのだが

そんな心配は全くの杞憂だった。

 

   ウチにも ムスメがいましてなあ 

   もう とっくに嫁に行きましたが ・・・

   お嬢さん、 アレの部屋をお使いなさいや

 

紅一点である彼女に コズミ老はさり気なく気を使ってくれる。

わざとらしさ等 微塵もないので、彼女は心底から気の休まる思いだった。

 

「 そう よねえ・・・ コズミ先生のお嬢さんのお部屋・・・

 ステキだったなあ ・・・  ああ オンナノコの部屋! って感じて。

 時代も国も違うけど 小さい頃からの仲良しさんの部屋みたいに

 思えてたっけ ・・・ 」

 

畳にカーペットを敷き 低いベッドにチェストに勉強机 ・・・

押入れ という不思議なクローゼットもあった。

机の上には 営業用笑顔全開の写真。 当時の人気アイドルなのかもしれない。

その色褪せた笑顔は ずっとこの部屋を見てきたのだろうか

 

「 ・・・ オンナノコは いつでもどこでも オンナノコ、よね。

 ふふふ お邪魔しますね、アナタのお部屋 使わせてください 」

 

やっとあの赤い特殊な服を脱ぎ 柔らかい生地のふんわりしたブラウスと

裾が広がるフレア・スカートを身に着けた時  ―  

身体全体が 心の中まで ・・・ 自由になった。 解放された。

003から 本当のフランソワーズ・アルヌール に戻ったのだ。

 

「 あの不思議なお家も好きだったなあ ・・・ 

 こわれちゃって 申し訳なかったけど ・・・ 

 ―  コズミ先生には いろ〜〜んなこと 教えていただけたわねえ。」

 

ジャポン ジャパン 二ホン ・・・ 名前は知っていたし

その国のバイクや車を好む男友達も多かった。

なにより 小型の音響機器の性能は群を抜いていたし、 

ダンサーとしてリハーサルの自習のためには必須だった。

一生懸命バイトをして 買ったときにはすご〜〜く嬉しかったものだ。

 

「 でもね〜〜 名前は知ってても 地球のどの辺りにあるのか とか

 気候・風土のこととか ・・・ 全然知らなかったし。

 コトバは もう〜〜 ムズカシかったわ

 最初は 自動翻訳機 を使っても判らない単語もあったし。 」

 

    お嬢さん。 この辺りは比較的温暖な気候でね・・・

    四季は ゆるゆると巡ります

 

    そのうちに 細かい雨がそめそめ降る日も来ますが・・

 

コズミ老は 最初はゆっくりと英語で話しかけてくれた。

若い頃 留学し、その後も国際的に活躍したいたこの老科学者は

滑らかで正確な英語を使う。

柔和は笑みを浮かべ < この国で暮らしてゆくために > という

教則本みたいな役目を果たしてくれたのだ。

 

「 ホントにねえ ・・・ コズミ先生がいらっしゃらなかったら

 わたし達 ここで立往生していたわよ きっと。

 可笑しいわよね メンバーの中にはちゃ〜〜んと 地元民 がいるのに・・・

 ふふふ ・・・ ジョーってば この国のヒトなのに

 全然なあ〜〜にも知らないんですもの 」

 

   え  そうなですか???  

   へえ〜〜〜〜 ぼく しりませんでした

   全然 知らないっす ・・・

 

コズミ老から いろいろ・・・教えを受ける度に

彼は そんな言葉を繰り返していた。

もちろん 日常生活のあれこれ・・については 彼はちゃんとアドバイスして

くれた。 最初は所謂 < 外交的なコト > を全部引き受けてくれた。

日用品の買い物から 食糧調達やら地域住民との交流とか・・・

ジョーがいなかったら 全て滞ってしまっただろう。

彼が存在しているお蔭で すんなりと地元に溶け込むことができたのだ。

 

   だけど ―

 

「 ねえ ジョー。 あの濃いピンクの花! あれはなあに 」

「 え・・・ どれ。  あ あれかあ・・・ う〜〜ん?? 」

「 ・・・ あれも サクラ? 」

「 ・・・ 多分。  あ 桜餅の匂いがする〜〜〜

 きっとね 桜餅の木 だよ 」

「 サクラモチの木?  サクラモチってなあに 

「 あ 日本のお菓子さ。  こう〜〜ピンク色で 葉っぱが巻いてあって 」

「 ??? 」

「 ひなまつり に食べるんだ 」

「 ヒナマツリってなあに 」

「 あ〜〜〜  ・・・ あ! オンナノコの祭だよ。

 お雛様を飾って サクラモチを食べて祝うんだ 」

「 ?? ・・・ ふうん ・・・ 」

どうやらこれ以上 聞いても 彼には説明ができないらしかった。

この地域で生まれ育った、と言うジョーなのだが

二ホン文化とか芸術などにはか〜〜〜なり疎い ・・・

というか 興味を持っていないらしく 本当に知らないのだ。

自然についても 特に植物関係はほとんど関心を持っていないので

知識がなかった。

 

「 サクラ?  ああ 春に咲く木の花さ。 ピンク色で・・・

 でもすぐに散ってしまうよ。

 ・・・ 花?  あの花壇に咲いてるヤツ?

 ・・・ う〜〜ん わかんないよ ごめん。

 ぼく 知ってるのって チューリップと向日葵とアサガオ くらい・・・

 あ あと ユリと! これは教会にいつもあったしね。

 あとは ・・・ わかんないなあ ・・・ 名前も  」

「 あの・・ お花とか 買わないの? 

「 教会には飾ってあったけど ― 花は食えないしな〜〜

 あんましよく見てなかった ・・・ 」

「 ・・・ そ そう ・・・ 」

フランソワーズは 最初かなり面喰ってしまった。

 

     この国のオトコノコって ・・・ こうなの?

 

     パリでは 花を贈れない男性なんて 

     信じられないわよ??

     パーティの時とか どうしてたのかしら???

 

しかし 言ってみれば 彼はこの国ではごく普通の、そこいらにいる

現代の青少年 ということなのだろう。

この国の文化や生活習慣の違いは だんだんと理解することはできた。

 

     ・・・ ふうん ・・・

     そういう国 なんだ?

     芸術ってあんまり身近じゃないのかなあ

 

     あら。 でも ・・・

     ニホンジンで有名なバレエ・ダンサー いるわよね?

     この前 ヨコハマで バレエ・スタジオ って看板 みたわ

     そうよ〜 ミュージカルとかやってるじゃない?

     あの猫さん達の作品、日本語版、観たいなあ〜

     なかなかチケット取れないのよねえ

 

     あ。 もしかしたら

     ・・・ ジョーが知らないだけ・・・?

 

     う〜ん ・・・ でも。

     芸術や文学に詳しければ、最高ってこと、ないわよね?

     これから勉強してゆけばいいんだもの。

 

     ジョーって なんか こう ・・・ 柔らかいのよ、心が。

 

     とてもとても感受性が強いんじゃないかなあ

     滅茶苦茶に繊細なのよ

     自分自身を護るために ― 外から一歩も入れないために

 

     たぶん  彼は なにも感じない、とても鈍いって

      ・・・ そんな人柄を装っているんじゃないかしら

 

 

一つ 屋根の下に暮らし 朝夕 顔を合わせていれば

だんだんと ゆっくりだけど  相手の本質がわかってくる。

島村ジョーは 実に繊細な感情をもち傷つき易いニンゲンなのだ、と

彼女は 少しづつ理解することができた。 

 

      ・・・ そっか・・・

      彼って 卵みたいなんだわ

      それも 恐竜かなんかの、すごく頑丈な卵よ。

      かた〜〜い殻の中には 脆い黄身が眠っているわ

 

      そんなヒトが 009 ・・・?

      最強のサイボーグ戦士 って 

      勝手に改造されて ・・・

 

      彼の心の中ではどうなってるの 

      

 

他人事ながら 心が痛む ・・・

戦闘のための道具に改造された、と知ったとき

彼は どうやってそのあまりに滅茶苦茶な現実を 受け入れたのだろうか。

もがき苦しんだか ・・・ 絶望で自暴自棄になったか ・・・

たった一人で 苦しんでいたのか ・・・

「 このヒトは ― それでもこんな風に微笑んでいられる のかしら 」

ジョーは 自分自身の複雑な身上など全く与り知らぬ、といった風に 

いつも穏やかにそう 静かに笑っているのだ。

 

      ・・・ 不思議な ヒト ・・・

     彼の笑みって ・・・ なにかに似てるわ?

 

     ・・・ う〜〜ん ・・・?

 

     あ。 雨 ・・・ かしら ・・・

 

 慈雨 ― そんな言葉があったことを 彼女はジョーを眺めつつ

思い出していた。

乾いた大地に 遍く公平に降り注ぎ潤してゆく。

どこでも いつでも。 街中でも 裏通りでも 荒野でも 森林でも。

雨は ・・・ そめそめと降り注ぐのだ。

 

     そっか ・・・

 

     彼は 雨。 大地に降り注ぐ 慈雨

     それが ジョー なんだ ・・・

 

フランソワーズは 彼の微笑の意味が見えた・・気がしていた。

島村ジョー というオトコノコの本質がちらり、と見えたと思った。

 

     きめた。

     わたし この慈雨を追い掛けるわ。

 

     彼の雨 ・・・一生降っていてほしいの !

 

 

  ― 住民たちの 思惑などには まったく無関係に

岬の邸では 淡々と月日が流れていた。

 

地域の生活環境にも慣れて、 地元商店街でも挨拶したりされたり

できるようになった。

 

     なんか ・・・ すごく素敵じゃない?

     ここって 暮らしやすいわあ〜〜

 

     美味しいモノもたくさんあるし

     ご近所さん達は親切よね

     気候も 寒すぎないし お日様が温かいの♪

 

     庭のある暮らしって憧れだったし。

 

     ・・・ なんか ステキよ!

 

笑顔の時間がどんどん増えてゆく。

フランソワーズの足取りは どんどん軽やかになってゆく。

 

サクラの花が散り 爽やかな青空の日々を楽しんでいたのだが・・・

ある朝  空は灰色に重く垂れこめ始めたのだ。

  

 

     しとしとしと ・・・ 

 

細かい雨粒は 飽きることもなく 終わることもなく 落ちてくる。

「 ステキなお天気が続いてたのに ・・・

 五月にあ〜〜んなに空が青いって 初めてだったわ。

 夏の服を着なくちゃ・・・って思ったけど 風はとても爽やかで 」

 

  ふう〜〜〜  またため息を出てしまう。

 

 コトン。  窓を開けた。 雨が入ってくるけど構わない。

 

「 冷たい雨 じゃないのよね〜 ざあざあ降る雨 でもないのよ。

 ・・・ だけど  ほら いつのまにかしっとり 濡れるの 」

外に伸ばした腕は ブラウスの袖に雨が滲み透ってくる。

「 細かい雨 ・・・ 窓を閉めていても家の中に入ってくるみたい・・・

 ほら カーテンも タオルも しめっぽくなっちゃう 」

 

ぶつぶつ言いつつも 彼女は窓を閉めないのだ。

 

「 外の空気がいいの ・・・ 雨が混じっていても ね・・・

 そりゃ 晴れの日が好きだけど ―

 あら こんな日の景色も 案外いいかも ・・・ 」

 

窓枠に手をついて  う〜ん・・と伸びあがる。

彼女の部屋は南向きで 大きな窓からはちょっと背伸びをすれば

海が見えるのだ。

 

         あ。

 

      海に 雨が落ちている ・・・ !

 

当たり前のことなのだが 海面に細かい雨粒が吸い寄せられるみたいに

溶け込むみたいに 落ちてゆく。

あまりに密やかで そして なんだか 少しばかり隠秘なカンジもして

どきどきしてしまう。

 

      雨は ― 海の中に飛び込んでゆくの

      自分から 身を投げて 海の一部になるのね

 

      ・・・ 雨は 海に 恋してる ・・・ ?

 

「 ・・・ あら ・・・ ねえ 海の色がちがうわ 

 いつもここの海は明るい濃紺だと思ってたけど 

 

海の色、海面の色が 一日の間にも様々に変わることを知った。

この地に住み この部屋で寝起きするようになって

初めて ゆっくりと海を眺めることができた。

 

絶海の孤島 に閉じ込められていた頃は 海の色など気付く余裕もなかったが・・・

今 側にある海は 様々な顔を見せるのだ。

 

「 海って 空と・・・ 似ているのかしら ・・・

 ほら ・・・ 雨だけど暗い空の色じゃあないのよね 

 白と薄い灰色かしら ・・・ ああ だから雨がよく見えないのね 」

 

空に顔を向けていると 雨は彼女の顔にも纏わりつき

いつの間にか頬を伝い落ちて 金色の髪を濡らし ―

ブラウスに 水玉の跡を落とし始めた。

 

「 あ〜〜らら ・・・ ほら こんなに濡れてしまったわ 

 冷たくはないんだけど ・・・ ああ 着替えないと 」

 

やれやれ・・・ともう一回ため息をつき フランソワーズは

部屋の中に引っ込んだ ― 窓は開けたまま。

 

    トントン。  遠慮がちに部屋のドアがノックされた。

 

「 ・・・ あのう フラン?  朝ご飯 できたけど・・・ 」

ドアの向こうから さらに遠慮がちな声が聞こえる。

「 あ  はあい ジョー   今 行くわ〜〜

 ブラウスがね 濡れてしまったのよ、着替えるわ 」

「 ?? 濡れるって ・・・? 」

「 ええ 雨に ・・・ そんなに降ってないのにね〜 」

「 ?? あの もうどこかに出掛けたの? 」

「 いいえ?  なぜ ? 」

「 だって ・・・ 服が濡れた・・って・・

 あ まさかきみの部屋 ・・・ 雨漏り とか?? 」

「 え〜〜  いいえぇ そんなことないわよぉ〜〜 」

「 だよねえ ・・・ 新築だもの 」

「 あのね 窓を開けて海を眺めていたの。 」

「 う 海を??  なんで?

 あ ― ! な なんかアヤシイ影 とか見つけたのかい? 」

「 ううん ・・・ 海にね 雨が落ちるのを見ていただけ 」

「 ??  なんで?? 」

「 え ・・・ 雨だから。 雨が降るから よ 

 ねえ 海に降る雨って 特別な雨、なのかもしれなくてよ? 」

「 ???   あ  と とにかく 朝ご飯だよ・・・

 パン、 トースターに入れたから さ 」

「 ええ すぐに ゆくわ。  

 ねえ ―   今日も ずっと雨 なのねえ 」

「 へ?  ああ ・・・ 梅雨だから ね 」

ジョーは 当たり前〜 みたいに言うと ドアの前を離れていった。

 

    つゆ ?  ・・・ この雨のこと?

    いつもの雨と 違うのかしら

 

    う〜ん  後で検索してみよっと

 

「 ! いっけな〜〜い  朝ご飯 〜〜

 今朝 美味しいカフェ・オ・レ 淹れるって約束したのだったわ〜〜

 あ  着替えなくちゃ〜〜 」

 

大慌てで チェストからTシャツを引っ張りだし 

アタマから被ると 部屋から駆けだした。

 

  トントントン 〜〜〜   軽い足音が階段を駆け下りていった。

 

 

 

< 海が見えるの >  ― つまり この邸はそんな場所に建てられている。

 

ギルモア博士とイワンが設計から拘り捲って建てた邸である ― 

日々の暮らしはとても快適で 居心地のよい。

一見 ちょいといい感じに古びた洋館 であるが

その実、直下の地下にはドルフィン号の格納庫があり 

直接 大海原に出航してゆくこともできる。

また格納庫からは垂直に上昇すれば天井を解放し 空に発進することも

可能なのだ。

小型の超高性能の要塞、といった役割を秘めている。

 

サイボーグ達は そんな洋館にそれぞれ個室を持ち

海外組は 第二の故郷として気軽にやってきて滞在してゆく。

 

「 ふん ・・・ なかなか使い勝手が良い。

 ああ リビングのピアノは定期的に調律を頼んであるからな 」

「 垣根に護り樹の苗、植えた。 この地は よい。 」

「 うん ― 海と空に逃れられるってのは得策だね! 

「 ひょ〜〜〜〜  オレ 飛んできて いいかあ? 」

「 おお 空よ 海よ  我の嘆きを受け止めてくれ ・・・

  ― うん 発声練習によい場所だな 」

「 さあ〜〜〜〜  みなは〜〜ん  ごはん にしまっせぇ〜〜〜  

「 ナカナカ 快適ダネ! 」

 

遠路はるばる ― しかし彼らはこの < 里帰り > を楽しみいしてる。

 

    やっぱり この邸って。

   

    ―  なんか居心地がいいんだよな

 

この一言に尽きる ・・・ らしい。

それは この地に定住する仲間も同じ想いだっただろう。

この定住組がいるのも なんとなく心強いのだ。

離れていても 大切な < 仲間 >、 特に紅一点の彼女は

皆の心の拠り所 みたいになっている。

< 仲間たち > は なにくれと無く彼女のことを気に留めていて

さり気なく 声をかける。

 

「 元気か。 」

「 うん。  あのね 楽しく暮らしているわ 」

「 そうか。 ・・・ ああ いい笑顔だ。」

「 うふ そう? だんけしぇ〜〜ん 」

「 ふふん 」

 

「 マドモアゼル。 稽古、再開したとな? 」

「 うん。 レッスン生なの、 バレエ・カンパニーで 」

「 よいよい。 芸術に国境はない 」

「 ええ  でもね 苦戦中よ 

「 ふふん ブランクがあった故、当然であるな 」

 

「 なんかさ 顔色、冴えてるよね 」

「 うん。 ここは暮らしやすいわ 」

「 ああ そうだよねえ  ヨコハマが近いから開放的なんだね 

「 ヨコハマ? トウキョウではないの? 」

「 あは 今度ヨコハマ、案内してやるよ 港はいいよぉ〜 」

 

「 いよっ  あれぇ なんかさ〜〜 ちっと太っただろ 」

「 まあ シツレイね! ・・・ うん 実は 

「 ここのメシ ウマいからな〜〜〜 カップメン とかよ〜〜 」

「 それが好きなのは ジョーです。 わたしは食べないわ 」

「 へ? じゃ お前の分、食わせろ〜〜〜 」

 

「 元気だな。 」

「 あら わかるの?  顔色、いいかしら 」

「 顔色ではない。 花壇も温室も畑も 元気だ、よく世話してもらっている 」

「 あら 植物からの報告? 」

「 ああ。 風も 土も 話す。 お前の笑顔を 」

 

彼女は笑顔で応え 皆にほっこりした気分を < 配って > ゆく。

そんなことができるのが 彼女には嬉しい。

 

       うふふ ・・・

       皆が いてくれるから。

       わたし 笑って暮らしているの

 

       ねえ ジョー・・・ そうでしょ?

 

 

その彼も 時々 こそ・・っと呟いてゆく。

「 ・・・ あのう 」

「 ? なあに 」

「 うん ・・・ こまったコト、あったら言って・・・ 」

「 ありがと。  嬉しいわ 

「 え えへへ ・・・ ぼ  ぼくも ウレシイな 

「 ・・・? ( なんで 赤くなってるのかしら )」

「 あ  だって ほら・・・ ぼく 日本人だから・・・ 」

「 え ええ ( それはとっくに知ってるけど ・・ ) 」

「 あの ・・・ あ〜〜〜 

 ここで 楽しく暮らせるといいなあ〜〜って思うんだ  」

「 あら。 ジョーは楽しくないの? 」

「 え?  ううん ううん  全然! 」

彼は ぶんぶんと首を横に振る。

「 ・・・ あの き きみが ・・・ 楽しいといいなあ って 

「 あら もちろんよ。  

 皆もね 言ってくれるの。 笑顔がいいね って 」

「 そ  そうなんだ ・・・ 

 あ〜〜〜 もう〜〜  たまに来るヒト達に言われたくないなあ

 ぼくが 最初に気付いた、と思っているんだけど 

「 ? なあに ? 」

「 ・・・ なんでもありません。 

 えへ  なんかいいなあ〜〜 この笑顔♪ さっいこ〜〜 」

「 笑顔が どうかして? 」

「 ・・・ なんでもありません ・・・ 

 あ 買い出しにゆくからさ。 必需品、メモしてくれるかな 」

「 あらあ  ・・・ ねえ よければ 一緒に行って いい? 

「 え!  わ  いいのぉ??  あのぉ 買い出し だよ? 

 食材とか トイレット・ペーパーとか ・・・ 日用品・・・

 あんまし わくわくするショッピング じゃないけど 

「 あら わくわくするうわ。  だって毎日 必要なものよね?

 それに あのね 自分の眼で直にみたいの。

 お野菜とか 果物とか。 知らないもの、たくさんあるの。

 この国は 果物、すごく美味しそう・・・ ね 教えてください 

「 わあ〜〜〜 それじゃさ ぼく、自転車、出すから。

 た〜〜くさん買っても大丈夫! 

「 あの  本当に いいの? 」

「 もっちろ〜〜〜ん って嬉しいなあ  ぼくだけだと判断がさ

 ムズカシイものってあるし。 野菜とか詳しくないし・・・

 日用品もさ 買い忘れちゃったりするし 

「 了解〜〜〜  ふふふ 女性目線でしっかりチェック ね 」

「 うん お願いします!

 あ 帽子 被っておいでよ  日焼けってイヤだろ? 」

「 あら ありがとう〜〜  ・・・ あ でも 今日 雨・・・ 」

「 あ そうだった・・・ か 傘 だよね 」

「 うふふ ・・・ ね ちょっとだけ、10分 待っててくださる 

「 おっけ〜  博士にも聞いて準備しとくね 

「 じゃ 10分後。 玄関の前 集合ね! 」

「 了解〜〜 」

 

   ぱたぱたぱた −−− 

 

彼女は一目散に 二階の自室へ駆けていった。

 

 

      ・・・ はあ ・・・

      キレイだよなあ〜〜

 

彼はしばらく その後ろ姿を、目の中の残像になっても見つめていた。

気付けば 手の平には汗が じっとり しっとり。

何気ない風を見せているけど 彼女と話すのはまだまだ緊張する。

 

      ドキドキ、なんてもんじゃないんだ

      心臓 バクバクなんだぜ?

 

      けど そんなコト、知られるのは

      ― ぜ〜〜〜ったいに イヤ なんだ

 

      女の子と普通に話しもできない、なんて

      思われたくないんだ!

      ただでさえ オマケのミソッカスの新人 だもんな

 

「 ・・・ 最後尾、だもんなあ ぼくって。

 マジでさ な〜〜んもわかってないし。 国際情勢 なんてさ

 興味なかったんだもん。 

 マジ な〜〜んの苦労もしてないし。  だって ・・・」

彼は 空に目を向け 海を眺め こそっとため息を漏らす。

濡れた掌は さんざん持て余した末、シャツの裾にお世話になった。

「 だって さ。  な〜〜んか・・・ あの時 ・・・

 もうダメだ って ああ これで死ぬんだって 目を瞑って

 ― 次に 気付いたら  009  なんだもんな。 」

 

       信じられる ???

       特撮ヒーロー じゃないんだぜ?

       ありえね〜〜〜〜 ってしか思えないじゃん?

 

       ・・・ 納得なんかしてるわけ ね〜だろ

       そりゃ 皆だって同じだろうけど。

 

       けど。 ぼくは ・・・・

 

彼は まさに ある日、突然 ― 目が覚めたらサイボーグになっていた。  

そのことに 今でも かなり引け目を感じている。

他の仲間たちは それぞれあまりに過酷な日々をすごし 耐え ・・・

009 の出現を待っていたのだ ― 虎視眈々と 準備を整え。

最後のメンバーは 彼らの行動へのトリガーとなったのだ。

 

  しかるに ―  その本人は。

 

「 銃 なんて生まれて初めて触ったんだぜ?

 水鉄砲 だって出力のよわ〜〜いオモチャがせいぜい ・・・

 マトに当てる ・・・って 縁日のゲームくらいだよ

 ・・・ ヒト型のモノを ロボットでも  撃つ なんて

 できっこないじゃん 〜〜〜 

 

専守防衛・平和ニッポン の青少年にはそれはまったく・まことに

< 受け入れがたい > 事実だった。

 

「 あ ・・・ 雨 強くなってきたかな?  」

一人でぶつぶつ言いつつも カーテンをしっかり絞り、窓を開け 

― 網戸をきっちり引く。

設計がよいので 少々の雨ならば降り込まない。

しかし 朝になればきっちりと窓を開け、新しい空気をいれる。

「 住まいの乱れは 生活の乱れ ― ってさ〜〜

 あは 寮母のオバサンに さんざん言われたよな。 」

彼は 住環境をきちんと整える ということは習慣になっていた。

施設でやかましく躾けられたお蔭・・・というところだろう。

 

「 あ ・・・ と 今朝は植木の水やり とかいらないな〜〜

 洗濯モノは バス・ルームをドライ・タイプ にして乾してるし 

 あ 買い物リストだった !   博士〜〜〜 」

ジョーはやっと次の行動を思い出し 書斎に飛んでいった。

「 博士〜〜 買い物にいってきます〜〜〜 」

「 ・・・ ジョーかい?  なんだね 」

ドアの向こうからすぐに返事があり ドアが開いた。

「 博士〜〜 なにかあります? 」

「 なにか とは何かね 」

「 あ〜〜  ・・・ 必要なモノ、ありますかあ

 本とかもリストを貰えれば 」

「 ・・・ ああ 買い物に行くのか。

 それでは 下の煙草屋でパイプ用の刻み煙草を頼む 」

「 あのう ・・・ ぼくだと売ってくれない かも・・・ 」

「 なぜだね 

「 あのう ・・・ 一応18歳未満 ・・・ 

「 ははは 大丈夫じゃ。 あの煙草屋のご隠居さんとは懇意の仲じゃ

 ほれ お前もこの前、一緒に挨拶しておったじゃないか

 ワシの < お使い > だとすぐにわかってくれるよ 

「  ・・・ はあ ・・・ 

 ( 初めてのお使い じゃないんだけど・・・ ) 」

「 いつもの、と言えばわかるよ。 

 あとは ・・・ そうさなあ 季節の和菓子を頼む 」

「 季節の和菓子 ・・・?  和菓子って羊羹とか餅とか?? 

 あれに季節があるんですか?? 」

「 おいおい ジョーよ? お前は日本人だろうが。

 商店街にな たちばな という和菓子屋があるだろう?

 そこの店員さんに よ〜く教わってこい 」

「 は あ 」

「 一人で行くのかい 」

「 い いえ ・・・ あ あのう ・・・ そのう 」

「 ??  なんじゃ 」

「 ・・・ あ あの  ふ ふらんそわーず も 」

ぱっと俯いたので 真っ赤になったトコを見られなかった ・・・ はず!

「 そうか   ああ 雨、降っておるぞ 」

「 あのあの カサさして カッパ着て 」

「 そうかね   ― ああ それじゃ この防水スプレーを

 使ってごらん 」

「 防水すぷれ〜 ? 」

「 そうだ。 豪雨でもない限り 雨をはじく。

 それになあ 植物由来のエキスを利用したから安全じゃ。 

「 へえ ・・・ はじめて聞いたです 」

「 ふふふ  これで特許でもとろうかの?

 まあ 試してみておくれ 」

「 はい。  へえ ・・・ これなら自転車で行っても

 なんとかなる かあ 

「 ああ  フランソワーズをな  なるべく外に連れ出してやっておくれ。

 若いモン同士 わいわいやって来ればよいよ 

「 は ・・・ あ・・・   あ イッテキマス 」

「 ああ 気をつけてな 」

博士は にこにこ・・・手を振っている。

 

      わ ・ 若いモン同士 って!

      と ・ 年頃のオンナノコを さ〜〜〜

      どこのウマの骨ともわかんない・ぼく なんかに

      < 連れだしてくれ > だって??

 

      い〜いのかなあ 〜〜〜

      ぼく オオカミさん かもしんないよ

    

      ・・・ あんまし 無防備すぎじゃん?

 

彼は なぜか一人でまたまた赤くなってしまう。

「 え ・・・っとぉ ・・・ あ  このスプレー〜〜〜

 フランと一緒に使ってみよう〜〜っと 」

 

   ふんふんふ〜〜〜ん ・・・ 彼の足取りも かる〜〜〜い。

 

「 よ・・・っと ・・・ 」

自転車を玄関前に 持ってきた。

「 あ カッパ着て  う〜〜ん スプレー・・? 」

   ― カチャ ・・・ 玄関のドアが開いた。

 

「 ジョー?  ・・・ わたし 遅刻した? 」

 

水色のレイン・コートを着て 彼女が立っていた。

 

     う ・・・ わあ〜〜〜〜〜 ・・・ !

     あ 雨の妖精 ・・・だあ〜〜

 

Last updated : 06.28.2022.              index     /    next

 

********  途中ですが

雨の日のメランコリイ話 ・・・ を書いていたのですが

梅雨 明けちゃったよぉ〜〜〜〜  (´・ω・`)